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「にしてもずいぶん遅かったじゃないか。もっと早く来てもよかっただろうに」
「来てたさ、だいぶ前から。お前が気付かなかっただけでな」
「木の下って言ったのに上にいるんじゃ気付かねーよ」
「そりゃー屁理屈ってもんだ」
「それはお前だろ」
長い長い時間が過ぎ去った。
あいつの言うとおり俺はすっかり年を取り、あいつはといえばいつの間にか人でもなくなっていて。
でも、約束は約束。
子供の頃に交わした、たぶん生まれて初めての指きり。
それをようやく果たすことができて、俺は感無量だった。
「とにかく。降りてこい」
「あ?お前が上ってくれば」
「バカ言うな。こうなるともう人じゃなくならないと無理だ」
あいつは笑顔のままだけど、内心いじけてるんだろう。今の今まで気付いてもらえなかったから。
俺は、手を伸ばす。
指は届かずとも気持ちは届くように。
「話がある。今度お前に会ったら話そうと思ってたことが、本当にたくさんあるんだ」
「…」
「隣に座って聴いてくれ。約束したこの場所で」
俺は確かに、お前に逢えるのを、ずっとずっと楽しみにしていたんだから。
無邪気な愛しい約束は果たされる。
春、花びら舞い散る桜の木の下で。
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