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そして運命の66社目、見事に企業に内定を貰う事に成功した。両親や兄弟や友人は祝福してくれた。だが、彼らよりも先に報告した悪魔は彼らよりも遥かに喜んでくれた。狭い部屋内を飛び回りながら拍手する様は滑稽ではあったが、その喜ぶ姿を見てぼくもなぜか嬉しくなった。
「やったじゃないか!」
「でもこれお前と契約したおかげだろ?」
「……」
ぼくがこう言った瞬間に悪魔は黙り込んだ。
「実は契約成立してない。お前は我輩に魂売ってないんだよ」
「え、どういう事?」
ぼくは心底驚いた、まさか仕事してなかったのか?
「もう他の悪魔と契約済みだったんだよ、魂も売約済みだった、全く無駄だったよ、貴様との付き合いは」
ぼくは更に驚いた。そして、悪魔は窓の鍵を開けて外に出て行った。
ぼくは悪魔が言ったその意味を理解したのは3年後だった。
ボーナス? なにそれ?
始発で出勤、終電で退社なんて生活が続いている。
残業代? そんなのあるわけがない。
ほうれんそう、すれば返ってくるのは怒声か罵声。
有給、なにそれ?
正月やお盆にも実家に帰れない。
祖父が亡くなったが葬儀中にも「テメーのジジイが死のうと知ったことか出てこい」とだけ入った留守番電話が入ることが数え切れず。
これが入社3年であった主な出来事だ。ぼくはこの生活が当然と思うようになった。そして色々とあり人事課に配属となった。3年前のぼくのような大学生と面接する機会が訪れた。その大学生にはすぐに内定を出した。
ぼくは面接が終わった後に窓をふと眺めた、そこには3年前に別れた悪魔がいた。そして悪魔は言った。
「いい顔になったじゃねぇか、悪魔の面構えだぜ」
ぼくは夜景をずっと見つめていて悪魔の声は聞こえなかった。
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