無い内定

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ぼくは腰を抜かして椅子から倒れ込んだ。それを見ながら悪魔は言った。 「我輩と契約すれば内定でも何でもくれてやろう」 ああ、これが噂の悪魔のささやきというものか。 「いいだろう、魂でも何でもくれてやるよ」 ぼくがこう言った瞬間に悪魔は窓を開けようとした。だが鍵がかかっており何度も窓を引いている。 「契約の前に窓を開けてくれないか、貴様の部屋に入れない」 大丈夫なのだろうか、この悪魔。急に不安になってきた。 不安の気持ちいっぱいに窓を開けるとそのまますぅーっとぼくの部屋に悪魔は入ってきた、そして、部屋の中央にどっこいしょと座り込んだ。この俗っぽい仕草を見てますます不安になってきた。 「よし、貴様に内定を与えればいいのだな? たやすいことだ」 次の瞬間、いきなり内定が与えられるのか? ぼくはそれを期待した。 「貴様がその会社に内定が貰えるように知識と能力を与えてやろう」 ぼくが思っている願いの叶え方が違うような気がした。 「一応その会社にも一次二次三次と面接回数があるだろう、それを捻じ曲げて内定を与えることはいくら我輩でも無理だ」 何か俗っぽい事言う悪魔だな。窓に鍵がかかってたらワープして部屋に入るぐらいやってもいいのに出来なかった時点で嫌な予感はしていた。そこで願いを変えてどう反応するか試してみた。悪魔を試す人間の方が心根は悪魔なのかもしれないな。 「願い変えていいか?」 「何だ?」 「大金くれよ」 「駄目だ、いきなりどこかから大量に万札が消えたら騒ぎになるだろ、ナンバーが同じ万札を増やすことなら出来るが……」 「遠慮しとく、偽札製造で捕まりたくない」 「賢明な判断だ」 「じゃあ、金塊出してくれよ」 「出どころの分からない金塊は換金出来ないぞ、出せと言われれば出すがその後の身の保証はしない」 ああ言えばこう言う、無駄に真面目な悪魔だな。 「お前、本当悪魔か?」 ぼくはそれが気になった。悪魔にしては妙に人間っぽいし、変なところで真面目だ。 「本当にお前と契約したら内定が貰えるのか?」 「ああ、保証してやるよ」 この俗っぽい悪魔に「保証してやる」と言われても信用が出来ないな。 「とりあえず、貴様に内定が出るまでは一緒にいてやろう、悪魔は気まぐれだからな、我輩の暇つぶしとでも思っておいて欲しい」 いてほしくない。暇をつぶすよりぼくの不安の種をつぶして欲しいよ。
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