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「それで、話ってなんですか?」 「そ、それは」  慣れた様子でホテルに入る駒井について行くまま部屋に入った。男同士で入っても大丈夫なのだろうかと思ったが、ここに来るまで従業員にも他の客にも一切会わなかった。部屋に入っても、樹はどうしていいか分からずただ立ち尽くすだけで、駒井は上着を脱いでベッドに座っている。駒井に言われてかろうじてコートは脱いだが、座っている駒井のまえで呆然と立っていると、見かねた駒井の方から声をかけてきたのだ。 「駒井に、謝りたいことがあって」 「謝る?樹さんが俺にですか?」 「ああ。この前はひどいことを言って、すまなかった」 「ひどいことって、どれのことですか?」 「男同士がありえない、と……」 「ああ」  なんだそのことか、と駒井は小さく笑った。 「別に、俺は気にしてませんよ。言ったでしょ、慣れてるって」 「そうかもしれないが」 「じゃあなんですか。わざわざそれを言うために樹さんは俺の事探して来たんっすか?」 「それだけじゃない!」  思わず叫んだ樹の声に、駒井の方が虚を突かれて目を見開く。「悪い」と一言謝り、今度こそ真っ直ぐに駒井を見た。 「駒井から言われたこと、考えてみた。それで……」 「それで?」  駒井の鋭い視線が刺さる。それでも、樹は向き合った。 「俺は、駒井が好きだ」  声は平坦だったが、樹の心臓はうるさいほどに鳴っていた。それだけ緊張した一言だったというのに、駒井は長いため息を吐いて、がっくりと項垂れた。 「こ、駒井?」 「あー、はいはい。そうですか。これだけ溜めておいて、まぁ……」 「な、なんだよその反応」 「だって、あれでしょ?好きか嫌いかって聞きましたからね。それで好きってことになったんですよね。はい、ありがとうございます」 「そ、そうじゃなくて」
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