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「この時間に帰ってきて、今からそれ、食うんですか?」  それ、と指さされたのはコンビニで買った中華弁当だ。当然のように頷くと、駒井は眉間にシワを寄せた。 「ちょっと俺、今からめちゃくちゃ余計なお世話してもいいっすか?」 「は?」 「十分ぐらいで戻るんで、ちょっと待っててください。それまで、それ食べないでくださいね」  それだけを言うと、それ以上何も言わずに飛び出した。バタンとドアが閉まる音が、部屋に響く。 (な、なんなんだ、いったい……)  事態についていけず呆然とている内に、駒井は本当に十分程で戻ってきた。手には一番近くのスーパーの袋があり、冬なのに汗をかいていたので、かなり走ったのだと分かる。 「今朝、悪いとは思ったんですけど、冷蔵庫の中を勝手に見たんですよ。酒と水とつまみしか入ってないんでビックリしました。もしかして、いっつもコンビニとか外食ですか」 「まぁ、大体は……」  まだ僅かに息が上がっているが、スーパーの袋と手付かずの中華弁当を持って、駒井はさっさとキッチンへ向かった。 「最近のコンビニ弁当が旨いのは否定しませんけど、あんまそればっかだと身体に悪いっすよ」  そう言いながら、断りもなくキッチンの棚をあさり、包丁やまな板を取り出した。「うわっ、フライパン新品じゃないっすか」という声が聞こえ、小言を言われているようで身が縮む思いがした。  手際よく調理をはじめた姿をぼんやりと眺め、中華弁当をアレンジしているのだと気づいた時にはほぼ料理が出来上がっていた。  目の前の光景についていけないまま、テーブルの上には皿に盛り付けられた料理が並んだ。香りと共に踊る湯気に自然と喉がなる。呆然としていると、テーブルに座った駒井が頭を下げた。 「勝手してすいません。とりあえず食べてみてください」  そう言って、出来上がったばかりの料理を勧められた。この家で向かい合う相手がいる状態で食事をするのは初めての事だ。戸惑いながらも、樹は料理に箸を伸ばした。 「旨い……」 「ほんとですか?味、薄く感じませんか?」 「まぁ、多少は……」  用意された料理を食べて、正直な感想を口にした。駒井が施したアレンジは、全体的に野菜を足して量を増すと同時に味を薄めるものだった。すると、駒井は気を悪くするどころか「やっぱり」と小さく息を吐いた。
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