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 恋人が彼女ではないとはどういう状況だというのか。理解できずに首をかしげていると、ビールの最後の一口を勢いよく飲み干して、半ばヤケのように言った。 「だから、彼女じゃなくて彼氏っすよ。ものすごーくわかりやすく言うと、俺ゲイです」 「へぇ。……は、はぁっ?」  明らかに動揺する樹とは対称的に、駒井は納得したという表情で頷く。 「ゲイ相手にすげぇ親切で、優しいなぁって思ってたんっすよ。隣に住んでるからとっくに気づいてるだろうって思ってたんですけど、知らなかったんですね」  未だ状況についていけない樹を余所目に、駒井は大きく頷く。 「すいません。驚かせちゃいましたね」 「あ、いや……」 「いいっすよ。驚かれるのにも引かれるのにも慣れてますから」  駒井は飄々と笑った。 「あ。でももしかして偏見強い感じですか?ホモファビアとかだったら申し訳ないっす」 「い、いや。偏見はない、と思う。悪い。その、予想外だった上に、はじめてのことだったから、驚いた……」  同性を恋愛の対象とする存在は、知識として知っていたが実際に会ったのはこれがはじめての事だ。予想外の驚きではあったが、偏見はない。 「マジっすか。無理しなくていいっすよ。気持ち悪いなら、俺出ていきますよ?」 「いや。驚いて悪かった。平気だから気にしなくていい。じゃあ、昨日の喧嘩は彼氏との喧嘩だったのか」  もう気にしなくていいと、元の会話に戻すと、急に駒井の大きな瞳に涙が浮かんだ。 「そうなんっすよ……。聞いてもらえます?聞いてもらっていいっすか?」  あっという間にバタバタと涙をあふれさせ、鼻水まですすりながら駒井は語りだした。 「昨日、いきなり別れようって言われて。でも、最近そっけなかったし、セックスもあんまりさせてくんなかったから、俺も潮時かなとは思ってたんっすよ。でも、理由を聞いたら彼女が妊娠したから別れてくれって言うんですよ」  そこまで言って、また大きく鼻水を啜った。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。相手もゲイなのに、彼女もいたのか?」 「はい。あいつ、バイだったんすよ。バイって男も女も両方いけるってヤツの事なんですけど。あいつ、そのこと俺に隠してて、彼女と俺と同時に付き合ってたって言うんです」  啜るだけでは間に合わなくなった鼻水が涙と混ざった。それを駒井は腕で乱暴に擦った。
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