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「ふざけんなって言ったら、マジになる方が悪いって言われて。男同士なんだから、後腐れなく別れればいいだろって言われて。カッとなって、あとは売り言葉に買い言葉でもうぐちゃぐちゃで……」  突然の号泣に対処ができない。おまけに相手は同性だ。慰めの言葉一つも浮かばず、ただうろたえていると、駒井は更に言った。 「男同士だからなんだって言うんだよ。ゲイだったら本気で恋愛しちゃいけないのかよ。そんなん、おかしいじゃねーか……」  涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、悲痛に訴える姿に、偏見など全く感じなかった。  男女は関係ない。本気で恋愛してるんだな。  少なくとも、駒井の心からの言葉に樹は心底同情した。同情という言葉が果たして駒井にとっていいものかは分からないが、ひどい振られ方をして追い出された彼を、はじめて心底可哀想だと思った。  机に突っ伏して泣いていると、長めの髪がしっぽのように揺れている。泣いている男に対してどう対処していいか分からないが、これが大型犬だと思うと自然と身体は動いた。  跳ねていた髪に指を絡ませるように頭を撫でると、想像よりも柔らかい感触がした。 「あ、すいまない。嫌だったか」  驚いて顔をあげた駒井から慌てて手を引くと、涙が散るのも構わずに大きく首を振った。 「嫌じゃない。嫌じゃないっす。よかったら、もうちょっと撫でててもらってもいいですか」  そう言って、駒井はまたテーブルに顔を伏せた。その姿を見て、もう一度髪を撫でた。  慰めている行為のはずなのに、なぜか自分まで落ち着くように感じた。
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