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 最後かもしれない。その言葉の意味が理解できたのは、会社を出てからだった。  あの後駒井は樹の家には戻ってこなかった。今朝起きてリビングを見ると、流しに置いただけの二人分の食器と、ビールの空き缶が二つテーブルの上に置いたままになっていた。住み慣れた家なのに、他人の家のような違和感を覚えた。  帰り道、いつものコンビニによって弁当を買った。駒井が来ないのであれば、夕食は自分で用意するしかない。特に魅力を感じない弁当の中から、一番ボリュームがあるものを選んだ。少し悩んで、ビールは買わずにサラダを買った。今日を休肝日にすると言った駒井の言葉を思い出したからかもしれない。  それなのに、予想を大幅に外して、駒井は今日も樹の玄関の前に座っていた。 「なんで居るんだ……?」 「来ちゃいけなかったっすか?」 「いや、そういうわけではないが。今日は居ないと思ってたから」 「あの後隣に行ったけど、やっぱ帰ってきてなかったんっすよ」 「そうなのか?」  あの音は間違いないと思ったが、買いかぶりだったようだ。無駄足をさせてしまった事に、樹は頭を下げた。 「悪かったな。うちに戻ってきてくれてもよかったのに」     
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