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帰宅した正美は、メイを呼びつけた。
「メイ、お風呂のお湯を落として、あたしにコーヒーを淹れて」
「はい、ご主人様」
その言葉に、正美は勢いよく反応する。
「お嬢様とお呼び!」
「お嬢様」
メイは感情のない声で応えた。そのまま浴室へ向かってしまう。
「まったく……」
残された正美は、早々にスーツを脱ぎ捨て、楽な服装に着替える。
「なんであんなのがうちに来ちゃったのかしら……」
正美は小さくつぶやいた。
「ご主人様、コーヒーをお持ちしました」
「だから、お嬢様だって言ってるでしょ!」
「お嬢様」
幾度も繰り返される、同じやり取り。いかにもなメイド服を着たメイが、毎度のように同じ失敗をする理由は、明らかだ。
プログラム。メイドロボットとしてつくられたメイは、十中八九、男性向けにつくられた、オタク趣味なメイドロボット。最近は、宣伝のために勝手に家の前にこうしたロボットを置いていく会社がある。ロボットに仕込まれたGPSとデータ送信機能を使い、利用者のデータやアンケート結果を会社に送付するらしい。そして、1週間以内に返送しなければ、買ったものと見なして料金を請求してくるのだ。
メイの金額は50万円。防水つきメイドロボット。スペックは悪くないが、いかんせん趣味が悪いと、正美は思う。
化粧品会社の社長である正美にとって、家事を担ってくれる存在がいるのは、大変ありがたいことだ。最初にロボットを受け取ったときは、こういうのも悪くないかもしれないと思ったのだけれども。
今日は3日目。やっぱり気に入らない。
「あんたって、本当に趣味が悪いわよね……」
「どういう意味でしょうか?」
「アンケートに書きなさい。『私はあんたみたいな男性向けのメイドロボットじゃなくて、執事ロボットが欲しい』ってね」
「はい、ご主人様」
「お嬢様とお呼び!」
「お嬢様」
メイがアンケートを送付する音が鳴る。さて、明日朝一にでも返送するか。正美はコーヒーに口をつけながら、メイの処遇を決めるのだった。
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