第1章

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プロローグ  わたしの名前は絵利衣【ルビ・えりい】。誕生日は十月三十一日。こんな変な名前になったのは、生まれた翌日に、右腕に『エリイ』と読めるような赤いあざが浮きあがってきたかららしい。今は亡き迷信深い祖母が、「この子の名前はこれにしなさい」というお告げにちがいないと言いはったのだそうだ。だが、親にいわせると、一応、絵のように美しく、利発で、衣服に困らない子になりますように、という願いをこめたとのことだ。でも、わたしは、母が当時はやっていたこのタイトルの歌が大好きだったからじゃないかと疑っている。ちなみに、あざはすぐに消えたという。  外国人みたいな名前のくせに、新しいものや機械類が苦手だ。パソコンやスマホはできるだけ使いたくない! でも、今の時代、レポートのための調べもの等では、さすがにパソコンは使わざるをえない。たしかに、便利なものではあるけどね。それでも、スマホはパス。いまだにガラケーを使っている。  そうそう、レポートと言ったけど、今、大学一年生。東京郊外の学園都市といわれている町の大学に通っている。今年から、理香とさくらというクラスメートふたりと、古い一軒家を借りて三人で暮らすことになった。三つ部屋があるので、それぞれ六畳の和室を自分の部屋にできる。ダイニングキッチン、風呂、トイレは共有。洗面所はせまいし、トイレはその脱衣所をかねた洗面所から入るようになっているから、ちょっと不便といえば不便だ。三人とも朝一の授業がある日は、少し早めに起きないと、トイレや洗面所がふさがって大変かもしれない。でも、わたしはなるべく朝一の授業はとらないようにしているので、なんとかなるだろう(早起きは苦手だ。かなりの夜型)。  実家は別の県で、通うのに二時間もかかるため、同じ町にあるこの家に住むことにしたのだ。夏休みにアルバイトをしてお金をため、週二日の家庭教師もしているので、自分のお金で準備をするからと言って親を説得した(月々の生活費は、やっぱり援助してもらうことになるけど)。家を出たかった一番の理由は、兄が結婚して、お嫁さんと実家に住むことになったからだ。こんな小姑がいては気づまりだろうと思ったのだ。
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