第1章

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 そして、秋に住む場所をいろいろ探しまわったが、コンクリートでできたぴかぴかの今風のマンションは性に合わなかった。なんとなく息がつまりそうな気がしたのだ。それで、木造の古い一軒家を借りた。マンション暮らしの友人たちが、おもしろそうだと言って、いっしょに住んでくれることになったので助かった。  北西を向いている玄関を入るとせまいダイニングキッチンがあり、その左側がわたしの部屋、右側がトイレと洗面所と風呂場だ。理香とさくらの部屋も、そのダイニングキッチンからそれぞれ入れるようになっている。理香とさくらの部屋は、私の部屋とダイニングキッチンとバスルームの並びの真ん中から南側につきだしたような格好で、全体の見取り図は凸を逆さにしたような形だ。バスルームは真北になるが、三人の部屋はどれも南側に面し、大きなテラス窓もついていて、とても日当たりがよい。さらに、わたしの部屋の前にはぬれ縁があり、テラス窓の外側には足台もあって、屋根がついた物干し場になっている(理香の部屋との角になる場所だ)。  流しも洗面台も風呂もせまくて使いにくそうだし、玄関から続いているダイニングキッチンや真北にある風呂場はかなり寒いだろう。それでも、木と紙でできたような、冬寒く夏暑そうなその家に心惹かれた。裏は竹林と梅林で風情があるからかもしれない。春にはウグイスの声が聞けそうだし。さらに、隣には小さな神社がある。古臭いが、なんとなく癒されそうな環境なので、妙に気にいってしまったのだ。 一月 新年の祈り  実は、きのう、この家に引っ越してきたばかりだ。本当は、比較的時間のある三月にしたかったのだが、一月だと引越し料金が格安だったからだ。貧しい学生の身。値段にとびついてしまった。それで、三人であわただしく引っ越してきた。三人ともちがうところに住んでいるので、それぞれ単身引っ越しサービスを利用して荷物を運びこんだ。混みあわないように、到着の時間を二時間ずつずらした。荷物はそんなに多いわけではないので、とりあえず暮らせるくらいには片づいた。でも、部屋にはまだ開けていない段ボール箱がいくつか積んである。  そういえば、同居人の紹介がまだだった。こちらが理香とさくら。三人ともフランス文学科で同じクラス。大学でも、一年二年の間はクラスがあって、必修科目はいっしょに受けている。
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