第1章

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「ねえ、理香とさくらの名前には、なにか由来があるの?」 「理知的な香りがする子になるように、だってさ。でも、リカちゃん人形みたいで、この名前きらいなんだ。小さいときから、さんざんからかわれてきたよ。男みたいなくせに、リカちゃんだってさーって」 「さくらはね、えーと、さくらの花のように美しく、みんなに愛されるように、って意味でつけてくれたらしいの」  理香とさくらは対照的な性格だ。それなのに、なぜかとても仲がいい。  年末にみんな実家へ帰り、ばたばたと荷物をまとめ、一月五日にこの家へ荷物を運びこんだ。今日は六日。 「あさってから学校だね。試験もあるし、ゆーつだなあ」  理香が言った。 「新年だし、隣の神社へお参りにでも行かない? 今年一年、よい年でありますようにって祈ろうよー」  さくらが提案した。 「あたしは、試験がうまくいきますようにって祈りたいな」と理香。  ということで、すぐ隣の神社へ行くことにした。引っ越しで疲れているから、遠くの、しかも混みあうところには行きたくない。でも、あそこなら楽にお参りができる。  外へ出て、お隣の家の前を通って、細い道へ出る。神社が隣にあると言ったけれど、正確には、お隣には二軒小さな家があり(ちなみに、向かいにも、もう一軒小さな家がある)、神社はその二軒の家の裏だ。梅林は神社の裏の道を通って奥へ入ったところ。竹林は梅林と続いていて、さらにその奥にある。そして、ちょうどわたしたちの家の裏手になる。  さて、神社に着いた。ここは少し変わった神社だと思う。入口に高い台座があり、その上にカッパの像が立っているのだ。人間のようにまっすぐに立っていて、甲羅ばかりが大きな小柄なカッパだ。なんとなく頼りない、助けが必要な子供のようにも見える。その足もとには、やはり立派な甲羅をつけた大きなカメがいる。隣のカッパが乗れそうなくらい大きい。由来はよくわからない。それでも、ここは一応、普通の八幡神社ということになっていて、夏にはここでお祭りも開かれる。 「せっかく隣にあるんだから、たまにはお参りくらいしないとねー」  そう言って、わたしたちは手水舎の水で手と口をすすぎ、軽く頭をさげて小銭を賽銭箱に落とし、鈴を鳴らしてから、ゆっくり二礼して願い事を心の中でとなえた。  みんなの中に自然にとけこめて、仲よくできますように。
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