第1章

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 さくらが後を追った。わたしもいっしょに行こうと思って歩きだしたが、ふりむくと、カメがついてこようとしている。よちよち進む姿を見ると、かわいそうでおいていけなかった。カメのところへもどり、しゃがんで甲羅をなでてやった。固くて冷たい。わたしのほうに顔を向けているが、どこを見ているのかよくわからない目だ。 「いったい、何でこんなところにいるの?」  どうしたらいいだろうと困っていると、後ろから女の人の声が聞こえてきた。聞いたことのある声だ。  えりいちゃん。  ふりかえると、義姉がいた。兄のお嫁さんだ。 「おねえさん、どうしてここに?」 「絵利衣ちゃんは今、不思議な力に守られていて、運をよくするから、絵利衣ちゃんのところへ行きなさいって、夢のお告げがあったの」  義姉がわたしに近づいてきた。すると、カメがこんどは義姉の足をつついた。 「まあ! カメは金運と家運をよくするのよ」  義姉は大きなカメをだきあげた。 「重いでしょ? だいじょうぶ? カメをどうするの?」  わたしはびっくりした。きゃしゃな義姉にこんな力があったなんて! 「ありがたく、このカメをいただいていくわ。じゃあね」  義姉は背をむけた。 「え、もう帰るの? そのカメをどうするつもりなの?」  義姉は何も答えず、カメをだいたまま歩きだした。  そして次の瞬間、信じられないことが起こった。消えたのだ! カメも義姉も。  なぜ? どういうこと? 「えりいー、どうしたの? 早くおいでよー!」  わたしを呼ぶ声が聞こえた。ふりむくと、理香とさくらがおみくじ売り場からわたしを呼んでいる。わたしもゆっくりふたりのほうへ歩いていった。どういうことだろうと、ぼんやり考えながら……。おみくじ売り場についても、あまりにもおかしなできごとなので、理香とさくらには話す気になれなかった。  さて、おみくじ売場だが、ふだん、ここにはだれもいないので、自動販売機がおいてあるだけだ。なんとなくありがたみがないが、コインをいれて、レバーをまわし、おみくじをとりだした。さくらと理香も同じことをした。  どうかな?、とおみくじを開いてみると――  小吉。年の終わりに待ち人きたる。金運には恵まれる。願い事成就はやや困難。あせらず時を待て。新たな世界が開ける。
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