第1章

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 ふ~ん。願い事は成就しないって、やっぱりみんなにうちとけるのは難しいってことかな。金運はいい? じゃあ、今度、宝くじでも買ってみるか。待ち人? だれか待ってたっけ? たしかに、わたしのいるべき本当の場所へ連れていってくれる人がいたらなあ、とか夢みたいなことを願ったことはあるけど。それって、ただの現実逃避だよね。 「やだー! 凶だって!」  さくらが大きな声をだした。  凶。願い事かなわず。事故に注意。恋愛運、金運は期待できない。友人を大切にし、努力と忍耐と勇気で不運を乗りこえよ。 「こんなの当たらないよ。ただの気休めさ。凶はめずらしいから、大吉よりも運がいいって言う人もいるよ」  そう言いながら、理香はうれしそうな顔をしている。  中吉。恋愛成就の兆し。金運、健康運あり。予想外の出来事にも落ちついて対処すれば、事なきを得る。注意して行動せよ。 「わー、いいな~。恋愛成就だって。理香にお目当ての人がいたの?」  さくらがきいた。 「まさか! そんな人いないよ!」  だが、理香は少しほおを赤らめた。それから、言葉を続けた。 「中吉って、なんか半端だな。めでたくもあり、めでたくもなし、みたいな」 「わー、なんだかわからないけど、さすが理香。難しいこと言うんだね」とさくら。  わたしは気になって、ふとカッパの像を見あげると、いつのまにかカメがカッパの足もとにもどっている。  ま、そういうこともあるか。カメだって、たまには動きたいだろう。それにしても、あのおねえさんは、本物だったんだろうか? 今度きいてみよう。今日、本当にここへ来たのかどうか。  気になって、夜、義姉に電話をかけてみた。すると、こちらには来ていないが、夕方うたたねをしていて、わたしの夢を見たと言った。カメが出てきたかときくと、夢の中でカメをだきあげたのを覚えていると答えた。  不思議なこともあるものだ。なにか意味があるのだろうか? わたしは義姉に、今日のできごとを話した。 「やだ! じゃあわたし、生霊になって、絵利衣ちゃんのところへ行ったのかしら? 絵利衣ちゃんから幸運をもらいたいあまりに! 驚かせて、ごめんなさいね。でも、そのおかげで、いいことが起こるような気がするわ」  あれは、おねえさんの生霊だった? でも、こわくはなかったな。
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