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そして。コンコン。先程と同じ女性が扉を開けました。
「真琴さん、それからお父様も。ご準備お願いします」
「はい」
控室、雄也さんとは反対側のイスに座っていたお父さんが先に立ち上がった。促されるまま控室を出て、こちらを振り返りもしないんだから。全く。でも、ずっと握り続けていた拳の内側、お父さんの指が震えていたこと。真琴には内緒にしておいてあげるわね。
いつかこんな日がくるんじゃないか。
それは真琴が産まれた日からわかっていたことじゃありませんか。
結婚なんてしない、キャリアウーマンになるの、と言った真琴のことを心配しながら、嬉しそうにしていたこと、ワタシ、知ってるんですからね。
でもね、いつかこんな日がくるんじゃないかって。
ワタシはちゃーんと知っていましたよ。
真琴には幸せになってほしいもの。だからね。
真琴も立ち上がり、テーブルの上にあった写真立てを手に取った。そして。
「行こうか、お母さん」
写真の中のワタシに向かって言いました。
『行きましょうか、真琴』
幸せになるために。娘の両手に抱えられながら、ワタシも控室を後にしました。
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