入場

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「皆様は紅差しの儀をご存じでしょうか? お母様が花嫁のお仕度の最後の仕上げとして口紅を塗ってあげることを紅差しの儀と言います。小さな頃、お洋服を作ってくれたり髪を編んでくれたり、時にはメイクを教えてくれたり。一人の少女から一人の女性へ育て上げたお母様が嫁いでいく娘に贈る、幸せになってねという気持ちが、この紅差しの儀にはこめられています」 母親が登場する花嫁衣裳の最後の仕上げとして、最も多いのはベールダウンだそうです。でも、真琴が選んだベールはマリアベールといって顔まわりにそってレースがあしらわれた、顔の前にベールを下ろさないタイプのものでした。 「もちろん、お母様以外の方にお手伝いしていただくこともできます。本日は真琴さんが紅差しの儀をお願いしたいというお二人に扉のすぐ傍までお越しいただいております。真琴さんのおば様でいらっしゃいます、中居恵美子様、斉竹佐代子様です。お二人は真琴さんのお母様の妹さんでいらっしゃいます」 音楽が切り替わりました。真琴が好きな映画の音楽。塔の上で暮らしていた女の子が生まれて初めて塔の外へ飛び出していくお話。 「それでは皆様、どうぞ拍手でお迎えくださいませ。真琴さん、ご家族とご一緒にご入場でございます」
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