すっぴんハート

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いつもクラスのみんなと話すときは優しい哲哉の声が ほんの少しだけ、尖った気がした。 「お前らはなんで残ってんの? 部活とかやってたっけ」 「俺ら映研。つっても部員、5人しかいないけど」 「へー。映画好きなんだ。 将来は自分で撮って、ハリウッドとか?」 「なわけねーだろ。 ただの趣味だよ」 そう言って笑う二人に、哲哉が静かに言った。 「俺はプロ目指してるよ。 ドラフトで1位指名されて、いつかはメジャーに行くって思ってる。 それって、本気で読モ目指してる野田と なんか違うかな?」 緊迫した雰囲気が伝わってきて あたしまで、唾を飲み込んだ。 「もし野田がいたら、お前らに言うと思うよ。 何も知らねーくせに いい加減なこと言うな! 本気で夢見てる奴を笑って 本気になることを怖がってるお前らの方が、100倍だせーんだよっ! ……ってな?」 最後の方だけ、いつもの哲哉の調子に戻ってたけど 怒鳴ったときの声はほんとに怖くて 下足箱の向こうで、二人がうろたえているのがわかった。 あたしは。 うつむいて、自分の上履きの爪先に マスカラが混ざった涙がたくさん落ちるのを、 ただ見つめてた。 ……なのに。 「つーわけだから。 そんなとこに隠れてないで、 自分の口で言ってやれよ。 テン子」 嘘でしょ?
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