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「……じゃあ。
『野田』、でもいいよ」
精一杯、普通の声を出そうとしたのに。
最後の方が、ちょっと震えた。
哲哉が振り向きざま、あたしの顔にジャージを被せる。
「化粧しててもブスだけど、
すっぴんはマジでやべぇから。
……他の奴には見せんじゃねーぞ」
……ブスって言うな。
そう言い返したいのに。
グラウンドの土埃と、哲哉の汗の臭いに包まれて
心臓が壊れそうで、何も言えなかった。
いつもの坂道を、初めて二人で一緒に下りた。
歩幅が大きい哲哉を小走りで追いかけながら
背番号のない練習用のユニフォームに向かって、心の中で呟いた。
勉強なんか好きじゃない。
野球にだって興味がない。
そんなあたしが、どうして死ぬほど勉強して
偏差値が高くて野球が強いうちの高校を受験したのか
……いい加減きづけよ、バカ哲哉。
【END】
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