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哲哉は年中無休の野球バカ。朝から夜まで練習漬け。
当然、登下校の時間も違うから
教室以外で顔を合わせることなんて、ほとんどなかった。
でも今は、肩を痛めて部活を休んでる。
ドラマや少年漫画にあるような『選手生命が!』とかいう深刻なものじゃなくて、
単なる捻挫らしい。
昨日哲哉んちのおばさんが、ひじきを持ってきてくれたときに教えてくれた。
毎朝顔を合わすようになってから、
こいつはあたしをバカにするようなことばっかり言う。
でもそれも、ケガが治るまでのことだから。
仕方ないけど我慢してやる。
そんなことを考えていると、哲哉がいきなりあたしの髪に触った。
予想外の動きに、目をつぶってリュックの肩紐を握り締める。
「……カメムシ。
そんなビビるなよ。
お前のくっさい香水のせいで
おびき寄せられたのかもな」
指でつまんだ6角形の虫を見せられて、耳が熱くなる。
「あんたのユニフォームの方が
100倍臭いから!!」
絶叫するあたしを、憎たらしい顔でせせら笑うと
哲哉はあっという間に坂道を駆け登っていった。
友達がいないあたしと違って
あいつはみんなに好かれる。
あたし以外のみんなに優しい。
口が悪いのは、あたしにだけ。
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