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……何だよ、『野田』って。
昔は、典子の典が
辞典の典と一緒だから、テン子って呼んでたくせに。
中学に入った頃から、哲哉はあたしを名字で呼ぶようになった。
教室のなかでも、いつも輪の中心にいる哲哉は
あたしが知ってるチビ哲とは別人みたいで
あいつを見てると、
膝小僧を擦りむいた夜のお風呂みたいに
胸がひりひりして、じわっと熱くなる。
さっさとケガ治して、練習に行けよ。
……デカ哲。
心のなかで呟いて、不安そうにあたしのスカートを握るえまの頭をなでる。
いつものように、えまの好きな歌を一緒に口ずさみながら
坂の上に目をこらすと
どんどん小さくなっていく哲哉の背中が見えた。
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