第1章

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 たくさん可愛い靴とサンダルを持っている由利と違って私のサンダルは今、由利が履いている、あれ一つしかない。  だから履いて欲しくはなかったのだ。  帰って来ないことを知っているから余計に。  だいたい一〇足以上も持っているのだからわざわざ私の一足しかないサンダルを履く必要はないじゃないか。  でも、そんなことは言えない。  だって、言っても意味がないから。  それを言うことは私の我儘になるから。  だから私はぐっと堪えた。  そして案の定、私のサンダルは帰って来なかった。  玄関にもなかった。  どこに行ったのだろうと思い、私はサンダル同様に一足しかない靴を履いてサンダルを探した。  サンダルは直ぐに見つかった。  私の家は古い。  今の家のように電気でお湯が沸かせるような最新鋭の設備にはなっていない。  お風呂に冷水を張り、ボイラーで沸かすのだ。  ボイラーは勝手口を開けたところにある。  私のサンダルは片方が完全に焦げた状態でボイラーの前に転がり、残りの一足は勝手口の入り口に合った。  その状態から、私は由利が勝手口から上がったこと、上がる際、サンダルは後ろ向きに放り投げるように脱いだことを予想した。  たった一足しかない私のサンダル  それを勝手に履かれた上に黒焦げにされたのだ。  私は怒り心頭で由利の元へ黒こげのサンダルを持って行った。  「由利」  「何?」  明らかに怒っている私の顔を見て、由利は面倒くさそうな顔をした。  その顔が更に私をイラつかせる。  「このサンダル」  私は百合に黒こげのサンダルを見せたが、由利は全く分かっていない顔をしている。  『している』というか本当に分かっていないのだ。  由利の一連の行動に悪意がない。  それは分かっている。  だからこそ、私の怒りは収まらないのだ。  「それどうしたん?」  「どうしたん?じゃない!由利じゃん。  由利がボイラーの所でぬぎっぱにするから焦げたんじゃん」  「私じゃないよ」  人のせいにするなと言う顔で由利が抗議して来る。  本当にムカつく。  「由利以外に誰が居るん?  だいたい、由利が昨日私のサンダルを勝手に履いたんじゃん」  「知らないよ」  「知らないよじゃないっ!」  「ちょっと、何喧嘩してるの?」  私の声で母が来てしまった。  「お母さん、だって由利が私のサンダルを」  「それぐらいでいちいち喧嘩しないでよ」
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