第1章

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 「君はこんな時間に出歩くような子じゃないよね。女性の一人歩きは危ないし。危機管理が君はできる子だ。それでもこんな時間にわざわざ来たのはそう言われたのかな?」  誰にとは東雲さんは言わなかった。  「天気が悪い日が少し続きましたからね。なかなか服が乾かなかったんです。私が気が利かなかったのでコインランドリーに行く時間がこんなに遅くなってしまったんです」  「・・・・・健気だね。そうやって庇うんだ」  「庇ったつもりはありませんよ。私は要らぬ火の粉を浴びたくないだけですから」  「そう」  話をしている間に東雲さんは取りに来た服を紙袋に入れ終わっていた。  男だし、堅気の分陰を一つもないので服を乱暴に紙袋に入れると思っていたのだが意外にも東雲さんは慣れた手つきで丁寧に服を折りたたんで袋に仕舞っていた。  「送っていくよ。女の子の一人歩きは危ないからね」  「え、でも」  「俺も同じ方向に帰るからね」  「・・・・・私の家の場所を知っているんですか?」  「ああ、知っているよ」  「教えた覚えはありませんが」  朔さんも、友人でも個人情報だからと言って絶対に本人の許可なく教えたりはしない。私は東雲さんに私の家を教えることを朔さんからは聞いていない。つまり彼の情報源は朔さんではない。  「俺は情報通だからね」  「・・・・・そうですか」  その情報源については聞いたも教えてはくれないんだろう。私も知りたくはない。  知らぬが仏だ。  「じゃあ、行こうか」  「はい」  私は東雲さんに家まで送ってもらった。  東雲さんはとても気さくな人で、話すと面白い人だと言うことが分かった。  東雲さんは私を送っていった後、元来た道を戻って行った。つまり彼の帰り道は私とは真逆だったのだ。だが、それを言わず、嘘までついて送ってくれたのだ。だから私は東雲さんがついた嘘には気づかず、「おやすみ」の挨拶をして家に入った。 第?章 8  「あら、ご機嫌様」  朝、学校に行く途中で近所でもお金持ちで有名な奥様に会った。  「おはようございます」  「今から学校?」  「はい」  「そう。大変ね。遠い所に通うと」  「いいえ、自分で選んだところなので」  「まぁ!しっかりしているのね」  朝から毛皮のコートに身を包み、甲高い声を上げる奥様。  朝は何かと怠い。そんな時にこの奥様のような甲高い声は正直、耳障りだ。
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