告白

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「どうしたらいいか分からなくて、その場に立ち尽くしていると、その人は俺に気付いたらしく、顔をこっちに向けてきたんだ。で、『助けて』って弱々しい声で言った。その人が喋ると口からも血が流れてきて、めちゃくちゃ怖かった。『死にたくないよ』、『寒い』、『助けて』って、俺の顔を見ながら言うんだ。……あの時、すぐに俺が着ていたコートとかで止血すれば助かったかもしれないのに、俺、怖くて、足とかガクガク震えて、頭が真っ白になってどうすればいいか分からなかった。……気が付いたら俺、逃げてた」  話し終えた遼一は、普段の威勢の良さを完全に失っていた。  僕も、頭の中で生々しい映像が浮かんできて、背中が冷たくなって、内臓が疼くような感覚におそわれた。  遼一は、額に汗をかいている。動悸がした時のように、息遣いも早くなっており、とても辛そうだった。 「……仕方ないよ、僕だって、遼一みたいな目にあったら、きっと同じような事をしたと思う」  少年の遺族には聞かせたくないセリフを、僕は言った。言い終えてから、救急車ぐらいは呼ぶかなと、思い直す。  それにしても、その少年を死に追いやったのは、遼一じゃなく、別の誰かなんだし、そんなに気に病む事でもないと思う。  助けなかったのはまずいかもしれないけれど、それでとやかく言われるのなら、あからさまに困っている人がいても見向きもしない人達はどうなんだと言い返せばいい。 「今日の晩飯はカレーなんだ」と同じ響きで始まった話題は、もはや鉛のように重たく、僕達の心にのしかかっていた。 「と、とにかくさ、遼一は通りかかっただけなんだし、何も悪くないよ。安心しなよ」  僕はそう言って、遼一の肩をポンポンと叩いてやった。
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