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「……うん、だよな」
腑に落ちない表情のまま、遼一は頷いた。
遼一は何も悪くない。
そう思うことが、すでに悪い事のような気がしたが、僕は心の中で頑なにそれを否定していた。 たとえ全人類が遼一を悪いと思っても、僕は遼一の味方につくだろう。
「そろそろ、行くか」
遼一がそう言ったのは、夕焼けが濃くなって来た時だった。
「うん」
僕も遼一の後について、公園を出た。 街は、一日の終わりを急ぐかのように、忙しなく動いていた。
いつものことだ。
仕事や学校が終わり、帰宅する人々の姿があり、買い物をする親子連れの姿がある。何ら平凡な日常の中で、僕達は一瞬にして違う世界に迷い込んでしまった気がする。周りの人々と同じ地を踏みしめているのに、心はどこか違う場所にある。
そんな奇妙な感覚だった。
僕達は無言のまま、いつもの道を歩いていた。
普段ならたわいのない会話で盛り上がっているはずなのに、何も話さないまま、話せないまま、僕は遼一の背中を追うだけだった。
「……じゃあ、また、明日」
いつも別れる曲がり角で、僕は遼一に声をかけた。
「あ、ああ。明日な」
いくら鈍感で他人の気持ちに気付かない事の多い僕でも、そう言った遼一の笑顔は無理に貼りつけているものだと分かった。
あの作り笑顔の裏では、何てことを言ってしまったのだと、自分の言動を悔やむ彼がいるに違いない。
僕は、いつもより長い時間、小さくなっていく遼一の背中を見送っていた。
遼一は、今まで堪え忍んできた感情が抑えきれなくなって、僕に話をしたんだ。そうすることで、彼の気が楽になるなら、僕はいくらでも話を聞いてあげたい。
明日、もし同じ話をしてきたら、ちゃんとアドバイスだとかを出来るように、今日のうちに色々考えておこう。
遼一の姿が見えなくなった後、僕は帰路につきながら、そんなことを考えていたのだった。
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