【Under the moon light】

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【Under the moon light】

「全ては一(いち)なるモノだったわけ」  先の台詞の前に「つまり宇宙ってのはさあ……」という冠詞がある事が注釈。さらにそのC調の軽口に比して、樋口(ひぐち)俊介(しゅんすけ)の語る内容はやたらと大言壮語で空想的だ、と常々思う節がある常盤(ときわ)直子(なおこ)の心情もまた補説。 「そ、かなり最近までは俺らは全て特異点とかいう一なる点から始まった、と思われていたわけだ。ドカーンとビッグバンってヤツあってさ。だけどその前に実はインフレーションってのがあったらしくてな。そうすっとこれでまた宇宙の起源が分かんなくなってきてさ……あ、インフレって言ってもこれは通貨膨張のアレとは違うぞ。宇宙論でのインフレーションね。どっちも急激に膨張するっていう意味では同じだけど。ま、それはイイとして、兎に角、俺たちは密度が無限大で体積がゼロの特異点から生まれたわけ、とは今では言い難く、もしそうだったらちょいと悲しくないかい、と俺は思っちゃうわけよ。ここまではアンダースタン?」 「わっかんない」  出来るだけ不機嫌そうに直子は答えてみせたが、樋口は構わずDJがスクラッチするように軽快な腕のジェスチャーを交え喋り続ける。     
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