消失の春

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 何度呼び鈴を押しても、彼は出てきませんでした。もう帰ろうかと思ったその時、扉の向こうで微かに物音がしました。彼の名前を呼んで扉を叩くと、やっとそれが開いて彼が顔を出しました。 ……ああ  私の顔を見るなり、荒れた唇が呻くような音を漏らします。  彼は酷くやつれていました。ボサボサの頭に伸びっ放しの髭。辛うじて立っているという状態でした。 ……急にごめんね。一応メールしたんだけど  同じように痩せこけた私は、薄くなった頬を上げて無理やり笑顔を作ります。 ……上がっていい?  彼は無言のまま体を横にずらしました。
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