消失の春

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 そうして、ただ流れるだけの時間が過ぎて中学二年生になった頃、私はカオリに出会ったのです。  きっかけは確か化学の実験ペアが同じになった事だったように記憶しています。頑なに人との関わりを拒んでいた私が、どうしてあの子とだけ話す気になったのか今思うと不思議ですが、なにか惹かれるものがあったのでしょう。気がつけば私たちは授業以外の時間、いつも行動を共にするようになりました。  クラスのはみ出し者だった私が言うのも何ですが、彼女はマイペースな人でした。気分屋で面倒くさがりで、思うままに生きている猫みたいな少女でした。  そういう訳で、いわゆる友達百人というタイプではありませんでしたが、私にとってカオリは唯一無二でした。彼女のまとう薄青い空気は何故か私を落ち着かせました。  彼女と仲良くなって一年近くたった頃、私は思い悩んだ末にとうとう自分の力について打ち明ける決心をしました。そして私を取り巻く全てを変えてしまった、あの事件についても。  どうせ離れてしまうならいっそ今のうちにという半分ヤケになったような思いでしたが、打ち明けている最中は怖くて顔を上げることができませんでした。  ですが話を聞き終わったカオリの反応は、想像していたものとは全く違っていました。彼女は形のいい眉を下げて、大変だったねとひとつ言い、それから、 ……じゃあもし私が突然死んじゃっても、とりあえず一度は会えるわけだ。良かった  カラリと笑ったのでした。  私は声を上げて泣きました。焦ったように背中を擦る温もりに、体の奥底に固まった、言葉に出来ない想いが溶け出ていくのを感じました。  嬉しさに涙が止まらなかったのは、人生で初めてのことでした。
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