消失の春

8/20
前へ
/20ページ
次へ
 私が通っていたのは中高一貫校だったので、高校生になってもほとんど顔ぶれは変わりませんでした。新鮮味のない入学式でしたが、カオリと同じクラスになれたことが何よりの喜びでした。  入学して一週間後。毎年数十人いる、高校入学組と仲良くなろうという目的のオリエンテーションが行われたのですが、そこで私にもう一つの出会いがありました。  同じ班になった、サクヤという男の子です。  彼は孤独の人でした。  その顔がどんなに笑っていても、あの人に取り付く影は私と同じ色をしていました。  どこか気になりつつも男子相手に積極的に話せるわけもなく、必要最低限の一言二言交わしただけでオリエンテーションは終わってしまいました。  次に彼と話したのはそれからしばらく経ってのことでした。カオリと一緒に校舎裏でお弁当を食べていたところに、突然フラリと現れたのです。 ……どうしてこんな所で食べてるの  パンを片手にした自分は棚に上げて、彼はそんなことを言いました。 ……ここは風通しがいいから  答えたのはカオリでした。因みに私はその横で、久しぶりの彼の声に固まっていたのです。 ……教室はクーラー効いてるのに ……あそこはねー、ちょっと煩いから  皆のことは好きだけど、昼休みくらい気楽に過ごしたいんだよねと彼女は続けます。 ……そっか。お邪魔しました ……別にここで食べていけばいいじゃん。もうあんまり時間ないんだし。えーと――何君だっけ  それから「私たち」という呼び名に彼が含まれるようになりました。普段無口な彼がカオリの前でだけ笑顔を見せる姿は、昔の自分を見ているようでどこか気恥ずかしいものがありました。  仲良くなる中で、彼は私の力についてなんとなく知ったようでした。そしてお返しというように、自分の生い立ちについて話してくれたのです。  彼は施設育ちでした。自分はいらない子供だったと語る彼は、幼い頃両親からネグレクトを受け、今の場所に保護されたそうです。  なるほど彼につきまとう影はここから来ているのだと納得しました。隣を見れば、カオリは私の打ち明け話の時と同じように、ただ黙って話を聞いていました。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加