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現時点でゴキブリとしての四度目の再生から一月が経とうとしていた。
研次は相変わらず真知子の前にその姿を現すこともできず、不定期に襲ってくる岐士との言質(げんち)のくだりに煩悶しながら身の安全を確保するだけの日々を徒(いたずら)に送っている。
ただ、あれから他のゴキブリは見かけなくなった。
それによって縄張り問題が解決したのは良かったが、最近ちがうものが浮上してきた。
徐々に思考が鈍くなってきたのである。
それに気づいた研次は簡単な計算を試みたのだが既に二桁の足し算、引き算もできなくなっていることに驚愕した。
更には人間だった頃の記憶も所々曖昧になっていたり抜け落ちたりしている。
それは日を追う毎にじわじわと悪化の一途をたどっているようだった。
―自分の魂がゴキブリの体と同化しかけている―
そう感じざるを得ないのは物思いに耽(ふけ)っていたはずの自分が気がつけば三角コーナーの生ゴミを貪(むさぼ)り、それに対する抵抗もなくなってきているからだった。
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