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好きという気持ちをジェラルミンケースにしまい込み、それを入れ子状に幾個も重ねて厳重に鍵を掛けて彼の見付けられない場所にしまっておきたい。
「別に……もう、好きじゃない」
この気持ちは、彼に知られてはいけないような気がした。
「嘘つけ。あ、罰ゲーム決めた。あんたの本心言う。口では嫌いとか言ってるけど、俺の事本当はどう思ってんのか」
それなのにそれを無情にも、不機嫌な彼がこじ開けて来ようとする。
桜の花びらが一片、私たちの横をくすくすと笑うように舞い落ちていく。
どうか、助けて。
そこだけスローモーションになった桜の花びら。
今助けを求められるのは、こんなにも儚い桜一片。
ダメだ。
分かっているはず。
彼は、意地悪だ。
だから。
……そんなの。
「……そんなの」
……教えない。
「……教えない」
教えたくもない。
唇を強く噛む。
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