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高校三年生。
卒業式の帰り道、偶然一人で歩く彼を見付けた。
彼は本州の大学への進学も既に決まっており、もう二度と会えないと思うと、告白なんてするつもりもなかったのに、ずっと秘めていた想いを告げたいという欲に駆られたのがいけなかった。
『ごめん、俺あんたの事よく知らないし」
そりゃあ、そうだ。
私の一方的な片想い。
『ごめんなさい、いっ今のは忘れてくださいっ』
彼を置いて、逃げるように走って帰ったのはまるで昨日の事のよう。
それからも彼への想いを引きずりながら幾つか誘われた合コンに参加する事もあったけれど、心が動くことなんか無かった。
市内の短大を卒業して社会人三年目の春。
少しはまともに動けるようになってきたかな、と僅かな自信がつき始めてきた矢先だった。
どうして彼がこの会社を選んだのか。
会社には失礼だけど、彼の進学先を聞けば全国に支店のあるような大企業にだって就職できたはず。
余程この街が好きなのかと、その時思った。
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