ひまつぶし しりとり

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彼はきっと、私の事なんか覚えていないだろう。 何せ、会話を交わしたのはあの告白が二度目。 それから四年も間があいているのだから、覚えているはずもない。 初めて交わした言葉で彼を好きになった。 彼が飛ばしたプリントを拾って渡した時だ。 あの時も校門の桜は八分咲き。 「サンキュー。あ、ほら。髪に桜の花びらいてる」 そう言って私の髪に触れた彼。 たったそれだけの事だったのに、単純な私はやられてしまった。 あの時は、幼かった。 もし今回の入社が初めての出会いであったなら、私は彼を好きになっただろうか。 現在、それを自分に日々問いながら、彼の事を諦めている最中だ。 一緒に勤めて知った事が幾つかある。 実は、口が悪い。 実は、誰にでも『デートしよう』と誘う。 実は、コーヒーは苦手でお茶派。 実は、年配者から気に入られる事が多い。 実は、少し意地悪。 あ、『誰にでも』デートというのは間違い。 私には誘ってきた事がない。 でも、同じ事務の女の子に声を掛けている姿を、給湯室でこれ見よがしに見せ付けられた事は数回ある。
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