77人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
彼はきっと、私の事なんか覚えていないだろう。
何せ、会話を交わしたのはあの告白が二度目。
それから四年も間があいているのだから、覚えているはずもない。
初めて交わした言葉で彼を好きになった。
彼が飛ばしたプリントを拾って渡した時だ。
あの時も校門の桜は八分咲き。
「サンキュー。あ、ほら。髪に桜の花びらいてる」
そう言って私の髪に触れた彼。
たったそれだけの事だったのに、単純な私はやられてしまった。
あの時は、幼かった。
もし今回の入社が初めての出会いであったなら、私は彼を好きになっただろうか。
現在、それを自分に日々問いながら、彼の事を諦めている最中だ。
一緒に勤めて知った事が幾つかある。
実は、口が悪い。
実は、誰にでも『デートしよう』と誘う。
実は、コーヒーは苦手でお茶派。
実は、年配者から気に入られる事が多い。
実は、少し意地悪。
あ、『誰にでも』デートというのは間違い。
私には誘ってきた事がない。
でも、同じ事務の女の子に声を掛けている姿を、給湯室でこれ見よがしに見せ付けられた事は数回ある。
最初のコメントを投稿しよう!