1…ピアノ

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かつて見ないほどの繊細な音色を奏でるその技術と、小さいと思えるほどの可愛らしい顔立ちから、瞬く間に、去年ブレイクした。 今年、その活動域はテレビにも広げたようだ。 その坂本菜々美のコンサートに、遥は来週アリサと行く。 だが、いくらアリサが行きたいと言っても、遥はあまり乗り気ではなかった。 ――――それは、五年前にさかのぼる。 まだ小学校でイジメられていた時、祖母と一緒に見に行ったのが、ピアノのコンサートだったのだ。人前に立つのが苦手なのに、世界的な作曲家、ヨハン・クルニコワという彼は、観客の中から遥に目を止め、ステージ上に上げた。 日本語が堪能だった彼は、愉快なトークも魅力で、彼の公演は当時チケットを取るのが大変だったが、いじめで声を失って間もない遥のため、祖母の町子は頑張った。 そうして、壇上にあげられた遥は、極度の緊張の中、ヨハンが起こす笑いの声に、まるで自分が笑われているかのような錯覚を覚え、逃げる様に壇上を後にしたのだ。
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