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《グーノの縫いぐるみを二人で狙ってて、取ろうとしたんだけど、取れなかったの…》
「グーノ?」
祖母はちゃぽ、とポトフのスープにおたまを落とすと、入れた皿を再び遥に渡しながら訊き返した。
祖母は、五十八歳。おしゃれとまではいかないが、落ち着いた、上品な女性だった。
《知ってるでしょ?学校で流行ってるアメリカ産のキャラクタの縫いぐるみ》
すると、その説明に祖母の町子は、あぁ、と言って理解したように笑った。
「あのへんな顔した縫いぐるみね…あんなのどこがいいの?」
《ちょっと変わってるけど、見てると何かいいじゃん?》
鍋に蓋をして、「さぁ食べましょ」というように、町子はテーブルを振り返った。
皿を、コトと音を立て、遥はポトフを置いた。
二人の傍にある、テーブルのすぐ傍の小さな仏壇。
そこには、とある二人の人物が写り込んだ写真が置いてある。位牌もだ。
遥には、両親がいない。
遥が二歳の頃、交通事故で亡くなった。父を桜井昭(あきら)と母を桜井玲子という。
まだ三十代の若い夫婦だった。
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