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言わざる
無事に声が出なくなった。
けど別に、一生治らない病だとか、そんなものじゃない。
ただ、一時的に声が出なくなっただけ。
原因は分かっている。ストレスだ。
「お前なんか嫌いだ!」
「私だって嫌いだ!あーあ、今すぐ視界から消えて欲しい!」
「それは俺のセリフだ!自分のこと棚に上げやがって」
「うるさいな、つべこべ言わずに早く出てって!」
力強く閉じられたドアを凝視。また、やってしまった。
くそ、くそ、くそ……私が言いたいのは、こんなことじゃないのに。
どうしてこんなに喧嘩腰で喋ってしまうんだ?自分で自分が嫌になる。
私なんて、私なんて。
いっそ、声が出なくなっちゃえば、喧嘩することもないのかな。
だからって、本当に出なくなるとは思わないじゃない?
一晩過ごしたら声が出なくなっていた。
お医者さんはすぐに治ると言っていた。すぐにって、どれくらい?
声の出ない生活を想像して、これは大変なことになったと、他人事のように感じていた。
でも……声が出なければ、あいつと、喧嘩しなくて済むのかな……。
それはとても良いことで、私は少しだけ、嬉しくなった。単純な人間だ。
声が出なくなったと、あいつに筆談で伝えた。
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