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冷たい空気の中に、爽やかで青い香りが漂う。腰ほどの高さの木には緑色の細やかな葉がつき、それを白い服を着た修道士が丁寧に摘み取っていた。
その中のひとり、ラズベリー色の髪を短く纏め、真鍮の眼鏡をかけた修道士が、小さな葉を付け、香りを放つローズマリーの根元に、青く小さなつぼみを付けた草が生えているのを見て、木を挟んで向こう側に声を掛けた。
「エルカナさん、地面の草がつぼみを付けていますよ」
おっとりとしたその声に振り向いたのは、誰もが振り返るようなうつくしい顔を、若草色の髪が縁取っている、華奢な修道士だ。
エルカナと呼ばれた彼は、背をかがめて、ローズマリーの根元に目をやる。
「おや、本当ですね。
もうすぐ春だなんて、気づきませんでした。
マルコは細かいところにも、よく気がつきますね」
そう言って背中を伸ばして微笑むエルカナを見て、彼に声を掛けたマルコも笑みを返す。
ふと、鐘の音がした。そろそろ昼食の時間のようだ。
マルコとエルカナは、摘んだローズマリーの枝を、ハーブを乾燥させて保存するための小屋へと持って行き、根元を麻紐で結んで壁に吊す。
昼食のために食堂へ向かう前に、ふたりは修道院の中にある、とある部屋に向かった。
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