第二章 来訪者

3/4
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
 マルコの仕事は、畑仕事だけではない。他の教会や、医者とも連携をして、病や薬の情報をまとめて報告する役割も担っている。  この仕事を任されるようになってから、もう二十年近くは経っている。隣の教区で神父を務めているタリエシンも同じような仕事をしていて、それでたまに情報のやりとりがあるのだ。  医学の仕事をする自分とタリエシン、それと、天文の研究をするアマリヤ。なぜエルカナは、自分達と同じような、穏やかに見える仕事を選ばなかったのだろう。その事がたまにひどく疑問に思えた。  疑問が頭を覆って仕事に集中できない。一旦気分転換をしようと仕事部屋を出ると、そこでばったりエルカナと会った。 「お疲れ様です。休憩ですか?」  ふわりと笑ってそう言うエルカナに、マルコは苦笑いをしながら返す。 「そうなんです。その、仕事に身が入らなくて」  珍しいですね。と言って驚くエルカナに、マルコはなぜ司教様に呼ばれていたのかと訊ねる。すると、エルカナは厳しい顔をして答えた。 「実は、この街で活動している人身売買組織を取り押さえるために、この修道院が協力すると言う事になったのです。 それで、その時に動員する僧兵の指揮を私に任せたいという事でした」  それを聞いて、マルコは顔を曇らせる。こんなにも優しく、儚げなエルカナに、何故その様な荒事ばかりが任されるのだろうと、不安とも不満ともつかないものが心を覆う。  マルコの様子を察したエルカナが、マルコの頭を撫でて微笑む。 「大丈夫ですよ。魔女裁判の実績を鑑みてとのことでしたので、私の所へ話が来るのは必然でしょう」 「なるほど、そうなんですね」  大丈夫だとエルカナは言うけれども、沈んだ心はそのままだった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!