枝垂れ桜の木

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思春期になると、桜並木の下がデートスポットでもあった。今でも、満開の桜並木を見ると彼女との楽しい時間を思い出す。 目を閉じると、楽しかった思い出が込み上げるのに今は契約を取れるまでは気が晴れない。次から次へと回り、やっと一件取った。 僕が女だったらいいのにと思う事はこういう時である。女なら体を張れば契約を取れるが、僕の裸体に興味がある者はいない。美男子でもない僕は、主婦の方にも相手にされないのはわかってる。それを覚悟してガソリンをばら撒きながら家々を回るのだ。 事務所へ戻れば、営業成績をグラフ化して張り出されている。結果が出ないと公開処刑である。それで辞めていく者が後を絶たない。会社はオフィスビルの中にある。無機質な部屋の窓から見える景色もビルばかりである。壁に貼ってあるカレンダーで辛うじて季節を感じるのだ。数字浸りのオフィスでは樹木とは縁がない。今日はとりあえず仕事を引き上げることにした。 会社員にとっての桜の木の下とは飲み会である。毎年ソメイヨシノが満開すると、若い社員に桜の木の下を場所取りさせ、参加者が集まった所で宴会を始める。僕たちもこないだそれをしたばかりだ。ビニールシートに並べたオードブルをつまみにビールを飲むのだ。ほろ酔い気分で帰る者も二次会に参加する者も桜の木の下が楽しみなのだ。     
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