SFの湯

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SFの湯

 昼休み、弁当箱を青いバンダナでくるみ、ケイは(かたわ)らのスマホに手を伸ばす。  表示される、華やかな小説募集のバナー。  右上に、新着を知らせる小さな赤い点。  ケイは、微笑みながらマイページのアイコンをタップした。  きっと新作に、応援を意味する「スター」が届いたのだろう。  最近ファンになってくれたあの人かもしれない(名前は読み方がわからない)。  みみーっと読み込み残量を示す線が、スマホのブラウザの上をゆっくり横切る。  あら、違った。  新しい「妄想コンテスト」のテーマが発表されたのだった。  小説投稿サイト内で開催されるショート・ショートのコンテストに、ケイは熱中している。  新しいテーマに毎回わくわくさせられる。    ところが、表示された「お風呂のしあわせ」という文字列を見て、ケイの口許が渋そうに引きつれた。  お風呂。随分家庭的だ、それに、 (誰が、準備するとお思いか)  シャワー派が増えた昨今、家族でお風呂に入る幸せを思い出させる作品を、との募集要項に、眉間の皺は太古の地表のように隆起した。 (勘弁してくれえー)  こんなことを考えるのは、こんな御仁に違いない。     
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