SFの湯

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 保育園でほこりと汗にまみれているはずだから。  自分が風邪をひき、風呂に入れられなかったことがあったのだが、その後たちまち海斗の尻に汗疹ができた。  しあわせ。  簡単に言ってくれるじゃないか。  風呂の支度は大変だ。  掃除だって。  夏はカビとの戦い。  バスタオルもバスマットもお風呂の蓋も洗うんだ。  換気扇も汚れるし。  透明であつあつのお湯のなか、手足を伸ばして、しあわせだなあ、なんて、太平楽に言ってみたい。  鏡のうろこ汚れも気にせずに。  そんなに頑張んなくていいよって、誰かに言われたら、それだけで泣けるだろうな。  でも一体だれが、そんなことを言ってくれるだろう?  短編のプロットならば、何とか知恵を絞って考え付くのに、自分を丸ごと肯定してくれる人物は、とんと思い浮かばない。    スマホの画面を真っ暗にして、ケイは思う。  このままじゃ、ダメだ。  いつか追い詰められて、海斗も自分も歪んでしまう。
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