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シングル・ファザーの湯
翌朝、ケイはいつもより膨らんだ鞄を手に、反対側にはぐずる海斗を引きずるように保育園に向かった。
今日は少し贅沢をするから、とケイの昼食も持参のおにぎりで済ませる。
つい買ってしまうお茶も我慢して、ゼロ円ランチで臨んだ。
そんな日に限って、現場がクライアントからの仕様変更に、右往左往しはじめる。
どうしよう。
いやいや、自宅で徹夜してもいいから、今日は帰らせていただく。
武士のように眦を決し、「では御免、御免」と足を滑らせながらエレベーターホールへと急いだ。
保育園に着くと、担当の先生に捕まった。
「海斗くん、お友達に噛み付いたんですよ」
「え」
当の本人は、はみ出した下着を引っ張りながら「あははー」と笑っている。
被害者の男の子も、何が面白いのか積み木をぶんぶん振り回し、至って健康そうだ。
内心は舌打ちしながら、
「そうでしたか、申し訳ありません」
「いえいえよくあることなんです」
先生も、報告せずに父母間トラブルが起こってはまずいということなのだろう。
気持ちもルールもわかるけど、憂鬱のスタンプをぺたりと押された気分になる。
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