1章

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 垣田という家で、昨夜未明事件は起きた。  そこの娘が、朝起きると両親が何者かに刺されて死んでいたのを発見し、通報した。  一階の窓が開いていたので、犯人はどうやらそこから侵入したらしい。  ところが、だ。  調べていく内に、この殺された二人は、普段から折り合いが悪く、喧嘩が絶えなかったらしい。 しかも何も盗られておらず、物盗りの犯行でもないらしい。  怨恨か…?  それとも…? 「ええ。そりゃあ家族を大切にしている人だったですよ~。まあ大人しい感じではあったけど」  事件のあった家から百メートル先くらいの家のおばさんが、そんな事をTVに向かって話している。そこの家の人間と、たいして話もした事無いくせに、さも知人みたいな顔をして得意げに話している。 「なんか…喧嘩が絶えなかったみたいだよ……」  事件の家の、すぐ隣のおばあさんがドアのかげから、そうコメントしているのが聞こえた。  そう。そうなんだ。  夜、あの家の前を通ると、よく家の中から喧嘩しているような声と、たまに何かが壊れるような音がしてびっくりする事があった。  そうすると必ず、そこの娘が飛び出してきて、彼氏の元へ逃げて行くんだ。  何故知ってるのかって?  実は…一度だけ気になって、彼女の後をついていった事があるんだ。  あれはすごくスリルがあったな。  彼女に見つからないように、電柱のかげとかに隠れながら、ついて行ったんだ。すると彼女は結構近くにあるアパートの一室に入って行った。  僕はそこでじっと待っていたが、すぐに彼女とアパートに住む男が出て来た。  僕はこの男を知っている。  短く刈り上げた髪に小さな金色のピアスを鼻に付けた、何だか彼女には似合わない男だった。この男は「トシオ」と言って、僕らが地べたに座って友達とダベッっているだけで、 「邪魔なんだよ! あっち行け!」  とか言って、いきなり追い払ったりする嫌な奴だった。  友達のサブローなんかは、背中を蹴られた事だってあるんだ。  とに角、トシオは僕らの間ではとても評判が悪い。
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