1章

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 僕はアパート近くの家の塀のかげから、二人をそっと窺った。  トシオと彼女は、しばらく何か言いあっていたが、彼女はすぐに家へと帰っていった。  どうやら、トシオの家は彼女にとっての、ちょっとした避難場所だったらしい。 「奥さんもね…たまに顔に痣をつくってたり…」  他の誰かが、またカメラに向かって話している。  そうだ…。  僕も見た事がある。  近所の誰かに「どうしたの?」と聞かれて、「ちょっとぶつけて…」とか適当な事を言ってたっけ。 「こんな事になるなんて…信じられないわ」 「すみません。あまり話した事はなくって……」 「強盗なんですか? 恐いわぁ」  みんな勝手な事ばかり言ってるな~。  僕は人垣からそっと警察の人を見て、声を掛けた。 「僕、犯人知ってるよ」  だけど、僕のような子供には耳なんかかしてくれない。警察は邪魔そうに僕を払い除けると、さ っさと行ってしまった。  僕は犯人を知ってるんだ。  だって……僕はずっと見ていたんだから。
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