1章

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 僕が野次馬にもまれていると、急に向こうが騒がしくなった。  カメラを抱えた男や、マイクを持ったリポーターが駆け出す。僕も慌ててその後に続く。  誰かが警察に両腕を押さえ込まれた格好で、小さなアパートから出てくる所だった。  トシオだった。 「違う…違うよ! 俺じゃない!」 「いいから乗りなさい」  トシオは必死になって訴えるが、そのままパトカーに押し込められる。  容赦ないカメラのフラッシュ。  心無い人間の、どさくさな罵倒。  違う。  犯人はトシオじゃない!  僕も必死で叫ぶが、僕の声なんか誰の耳にも届いちゃくれなかった。  どうやら、垣田家からトシオの指紋や足跡が見つかったらしい。  そしてトシオは、殺された両親から娘と別れるよう再三言われていたらしい。つまり交際を反対されて、犯行に及んだ―――と連行されたのだ。  犯人と断定されたトシオが捕まり、しばらくすると垣田家の周りは、随分とひとけが無くなっていた。数人の警察がうろうろしている位だ。野次馬も殆んどいなくなった。
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