2章

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2章

 僕は今度こそ、と歩み寄った。  するとドアがカチャリと開いて、彼女が顔を出した。  また…目が合ってしまった。 「こっちに来たら?」 「……」 「怖がらなくてもいいのよ」  僕よりも背の高いその彼女はそう言って笑ったが、目は笑っていない。張り付くような笑顔だ。  そろそろと僕は彼女に近づく。  それを見て、彼女はくすりと笑った。 「やあねえ。そんなに怯えないでよ」  だけど僕は見たんだ。  あの夜の事…。 「…君は昨晩の子でしょ。 見ちゃったかしら?」 「……!」  横たわる両親にナイフを突き立てていた、この人を……。  そしてナイフの柄を何かで拭き取ると、何食わない顔で部屋の明かりを消した、この…。 「警察に言ってもいいよ。でも君の言う事、聞いてくれるかしら?」  彼女は、ふふと笑う。  警察は遠くで何かを探したりしていて、僕らの周りには誰もいない。彼女は囁き続ける。 「…みんな嫌い。暴力ばかりのあいつらも、助けてくれないトシオも……」  だからトシオを家に呼んで、両親を怒らせトシオを帰した後、彼のナイフで刺したの…と人事のように話し始めた。
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