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「毎日毎日飽きないの?」
ときおり、こんな素朴な疑問を投げかけるも、答えはいつも一緒だ。
「うっさい。トイレのぼっちさんに、あたしらの気持ちは理解できないでしょ」
「最近、地縛霊になられたトイレの便所飯さんの意見はもっともでしょうけれど、わたしたちもプライドというものがあるの」
さんざんな蔑称である。まあ、昼休みにトイレで弁当のから揚げを詰まらせて窒息死してしまったわたしには、お似あいの名前かもしれないけど。
二人は未だ手を休めず、今度はお互いの頬を引っ張りあい、変顔合戦を繰り広げていた。せっかくの妖艶な顔立ちがめちゃくちゃになっている。
「ここは心霊スポットよ!」
「聖地よ!」
ものすごい形相でどちらもちっとも譲らない。わたしは完全に蚊帳の外である。
なにせわたしはとなりの個室の地縛霊なのだ。二人にとっては、部外者に等しいのだろう。
「ただの便所なのにねえ」
わたしは溜息交じりのつぶやきを漏らし、終末が訪れそうにない二人の同居生活を、壊れた仕切り壁の向こうから垣間見るのであった。
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