いざ、

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 無駄のない動きで飛び移って、すぐさま木の後ろへ身を隠す。 「わしの一存では決められぬ」  不機嫌が滲むような年長の声。 「お前がどうのこうのと言える立場ではないのだ。このような夜半に呼び出しておいて」 「ですが」  反論する声は――なんと、燕爾。 「約束では十年だと申していたではありませんか」  十年――? 文蔵は首を傾げた。  なるほど。幼い子供が生きるか死ぬかで選んだ道が、十年だ。  十年なんて口約束、あってないようなものなのに。 「とにかく、わしは帰る。足抜けするなどと考えず、今己が生かされていることに感謝しろ。よいな」  玉砂利が苛立たしげに踏まれて音を立てると、徐々に遠のいて行った。  どんな顔をして見送ったのだろうか。  雲が月を覆って、静かに闇が満ちる。  木にもたれながら腕を組んで、文蔵は夜風に揺れる木の葉を仰いだ。  仰いだら急に頭がくらんで、足元がもつれる。お、これは、酔いが醒め切っていなかったか、と舌打ちする間もなく玉砂利を踏みしめていた。  同時に、カンと甲高い音が耳のすぐ横で鳴った。  脂汗と共に見やれば、丸に揚羽蝶の銀一本簪が樫木に突き刺さっている。 「おいおい、マジかよ」     
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