いざ、

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「幽霊になりたいのか、それとも俺と一緒に生きてえのかっ。どっちなんだ、燕爾!」 「両方ですよ! 両方だから()いだんでしょう!」  ひしゃげた顔をようやく文蔵に向けた。 なんて顔しやがるんだと、文蔵が笑う。 そうだよな、それくらい欲がなきゃな、と。 欲のない人生なんて死んでるも同然だ。 「なんでい、なら、話は早え。ほんもんの幽霊になっちまう前にこっから出るぞ」  来い、と文蔵は燕爾の腕を取って奥へと進み、運よく中庭に手水を見つけて桶が無いかを先に降りて探して回った。  桶代わりに柄杓を見つけて振り返る。だが、燕爾の姿がない。 「何してんだっ」  見れば、縁側の奥、未だ客間に突っ立って、倒れてきた柱の下で息の無い老人を見下ろしていた。  おもむろに、帯から丸に揚羽蝶の一本簪を取り出して、老人の手にそっと忍ばせる。  なるほど。これで、己も幽霊だと。  今にも崩れそうに燕爾の頭上で天井の梁がぱきぱきと音をたてる。 「燕爾、走れっ」  その動きは素早い。  だが、梁よりも先に軒先の屋根が崩れ落ちた。燕爾の行く手を阻む。  足元は火の海だ。 だとしても駆けだした足はゆるめない。 「飛べっ!」  燕爾は、文蔵の掛け声と共に縁側の縁を蹴った。  火の粉の上を、燕が舞う。     
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