いざ、

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懐刀から手を放して、杞憂だったことに胸を撫で下ろすよりも、この後、あの大男にあの女が抱かれるのかと思うと、文蔵はなぜだかどうして心持ちがむしゃくしゃした。  寒い、と思って目が覚めれば、火鉢の中の炭火が事切れる寸前だ。  「どうりで、ちくしょう」、と悪態をつきながら火箸で炭を突いてみるが、勢いを取り戻すには手遅れのようだ。  諦めて火箸を灰に刺すと、転がった徳利を拾って逆さに振ってみる。  長旅の疲れもあり、酔いも回って畳の上で眠りこけていたらしい。  結局のところ、どうにもつまらない気分になってしまった文蔵は、あの後適当な女郎を選んで二階の座敷に上がり、早々に寝床へ誘われたが、そんな気分にもなれずだらだらと不味い酒を半ばやけくそのように呑んで、女がいなくなるとそのまま眠ってしまった。  文蔵は、傍らに脱ぎ捨てた羽織を拾うと酒の回った重い体を上げた。 「いったい何時なんだ」  よたよたと歩いて襖を開ける。  騒がしかった清掻もすっかり止んで廊下は驚くほど静かだった。  もしや、店仕舞いの八ツを過ぎてしまったか。となれば、大門が閉まる。  ほとんど手探りで階段を下り、回廊に出ると中庭を回り母屋の恐らく裏手でようやく厠を見つけ、我慢の寸前で小便を足して安堵の息をつく。     
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