桜の花びら

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 3月下旬、井上瞳は桜の木の下で1才の子供とたたずんでいた。 「きれいね、実、昨年は二人で花見をしたのにね」  スマホのツーショット写真を眺めて涙を流していた。 「私があの時、運転中に話しかけなかったら、あなたは死ぬことはなかったのに」  2年前、瞳と実は取引先の営業マンと受付嬢の関係。実は、瞳の会社の課長とアポを取りたいと瞳に取り入ろうと頭を下げた。最初は、しつこさに苛立ちを感じた。実の一生懸命さに惹かれていった。実も瞳の可愛さに好意を持っていた。二人の交際は始まった。 「瞳さん、俺と結婚してください」 「はい、お願いします」  二人は結婚した。幸せの絶頂にいた。 そして新婚旅行に行くことになった。 「新婚旅行は、どこがいい?」 「箱根がいいな」 「じゃあ、花見がてら、ドライブしようか」  3月下旬、二人は箱根に新婚旅行に出掛けた。そして桜の木ノ下でランチをしながら花見をしていた。 「実、来年はこの子と3人でまた来ようね」 「瞳、もしかして?」 「そうよ、妊娠3ヶ月だって」 「元気で頑張らなければ」  瞳は、帰りのドライブ中に幼い子供が座り込んでいるのを見かけた。 「子供がいるわ、停めて」 「え、どこ?」  よそ見をしてしまった実は、事故を起こしてしまった。  瞳は、気がつくと病院のベットに寝ていた。奇跡的に無傷でお腹の赤ちゃんも無事であった。しかし、実は、たすからなかった。  瞳は、実の洋服に付いていた桜の花びらを手に取り、泣いていた。
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