僕と桐島

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僕と桐島

「どうして桜は綺麗なんだと思う?」  二週間前、桜の下で再会した日に彼女は――桐島は言った。  僕と桐島は隣り合って草むらに座りこみ、桜を見つめていた。七分咲きの桜は、なかなか良かった。こちらの枝は満開に花開いていると思えば、一方の枝は小さな丸みのある蕾が残っていたりする。  周囲にいるのは、僕たち二人だけだった。少しばかり下に桜の林があって、花見客は皆そっちで騒いでいる。  桜は絵画と同じだ。少し離れた場所から見なければその美しさは十分に味わうことが出来ない。なのに多くの人は絵に物凄く近づいたり、桜の下で騒いだりする。  喧騒を避け、本当の意味で桜を愛でるためにきたこの場所に、見覚えのある女性が立っていた。桐島だった。会うのは五年ぶりだ。 「桜の花が綺麗なのは、人間の脳では花びらの動きをちゃんと把握できないからだ。花びらは全てランダムに動く。パターン認識できない。だから、つい引きこまれ、見入っちゃうんだ」 「違うよ、武男くん」  桐島は断言した。 「桜の花が綺麗なのは、こわいものが埋まっているから」 「こわいもの?」
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